『世界の中心で、愛をさけぶ』の片山恭一が行く、”シニア・モーターカー”の旅

裏ななつ星紀行ー完全版

九州を一周する豪華寝台列車「ななつ星 in 九州」への
熱狂ぶりに恐れをなした片山・小平のシニア二人組が、
”真の贅沢ってなんだろう?”と
格安ローカル列車の旅にでた。その全記録。
<第七話>

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文=片山恭一
写真=小平尚典
アートディレクション=東裕治

裏ななつ星紀行 第七話   三日目(後編二)

いきなり団子:熊本駅
いきなり団子:熊本駅
いきなり団子:熊本駅
いきなり団子:熊本駅
いきなり団子:熊本駅

 旅もいよいよ最終日……のはずだったが、まだ三日目の夜である。ぼくたちは熊本にいる。八代で乗り換えて、熊本に着いたのが五時半過ぎ。駅前のホテルにチェックインしてから、市電で水前寺の近くの居酒屋さんへ向かう。夜の部担当の小平さんがリサーチしておいてくれた、美味しい馬刺しや馬肉のホルモンを食べさせてくれるという店だ。数時間前に美味しい辛子レンコンと「サラたまボール」をいただき、ワインを飲んだばかりだというのに、性懲りもなく期待が高まる。
店の構えは、どこにでもありそうなラーメン屋さんといった感じ。暖簾をくぐってなかに入ると、威勢のいいあんちゃんたちの声に迎えられる。マニュアル化された「いらっしゃいませ」ではない。声に気持ちが乗っている。さらに期待が高まる。水曜日の午後六時半。奥の座敷やテーブルには、すでにかなりの客が陣取っている。ほとんどはサラリーマン風の男たちだ。会社帰りの宴会なのだろう。他の席もほぼ予約で埋まっているらしい。ぼくたちは予約を入れていない。八時までという時間限定で、カウンターの席を空けてもらう。

馬刺し、馬のホルモン、もやしの炒め物などを、勧められるままに注文する。小平さんは生ビール、ぼくはハイボールで乾杯。注文した料理がどんどん出てくる。どれも美味い。焼酎に切り替え、さらに飲み、食べる。ぼくたちの坐っているカウンターの目の前が調理場になっている。普段、お店では写真を遠慮している小平さんも、惹き込まれるように写真を撮りはじめている。自由で開放的な雰囲気が、この店にあるのだ。
調理場で火を使っているのは二人だ。一人は大将、もう一人はその息子で、店ではマスターと呼ばれている。料理を運んできた若いあんちゃんが、そう教えてくれた。幾つもの中華鍋をとっかえひっかえして、黙々と料理を作っている。二人ともほとんど口をきかない。料理が出来上がるたびに、そばにいたあんちゃんたちが、すばやく持っていく。店には十人ほどの若い人たちが働いている。料理を運ぶ人、注文をとる人、お酒をつくる人、鍋や食器を洗う人……みんな生き生きとして、楽しそうに働いている。しかも誰かが何かを指示するのではなく、店の人たち全員が一つの生き物みたいに、有機的に連動している。
ときどき笑い声が聞こえる。みんな自分の仕事を気に入っているのだろう。マスターは大将である父親を目標にして、ここまでやってきた。他の人たちは彼らの姿を見て、いつか自分たちも中華鍋を持って、あんなふうに美味しいホルモンやチャーハンを作ろうと思っているのだろう。一人一人が目標をもっている。だから生き生きとして、楽しそうな雰囲気が生まれる。ベテランも新米も、この店で働いている誰もが、とても感じがいいのだ。
「素晴らしい!」
 小平カメラマンが感極まったように言った。
「ラーメンも食べようかな」
「チャーハンも美味しそうですよ」
「じゃあ両方注文して半分ずつ食べよう」
 いつのまにか店は満員だ。そろそろ約束の時間が迫っている。でも十二分に満足だ。料理もお酒も美味かった。それ以上に、店の雰囲気が素晴らしかった。大将とマスターの寡黙な仕事ぶりも、他の従業員たちの楽しげで生き生きとした働きぶりも。ここには堅実なカルチャーがあると思った。そのカルチャーに耕されて、店の人たちはみんな育っている。そういう場所にたった一時間半ほどいただけなのに、ぼくたちは元気をもらった。

第八話に続く…(7月2日頃更新)

いきなり団子:熊本駅

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